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2025.4.25
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Rトピックス

「職」と「住」の同居のススメ

山﨑博子(アートアンドクラフト/大阪R不動産)
 

働く場所と帰る場所が一緒、という憧れのライフスタイル。そのメリットは? デメリットは? 職住一体の暮らしを始めるにあたって考えておいた方がいいことはあるのでしょうか。
ひと口に「職住一体」と言っても、そのスタイルは人それぞれ。どんな人が職住一体の暮らしをしているのか、気になる2軒の暮らしを取材しました。

case1:絵画教室×家族の住まい
アトリエ使いがメインのつもりが……

1軒目は、神戸市垂水区のJさん宅。ご自宅の一部で子ども向けの絵画教室を開かれています。Jさんは15年前、中古戸建てを購入され、大阪R不動産を運営するアートアンドクラフトでリノベーションをされました。

写真:坂下丈太郎

――最初から教室のスペースをつくるつもりで物件を探されたのでしょうか?

そうです。家と別に教室を構えるとなると、とてもお金がかかるじゃないですか。だから店舗付き住宅で探してもらって。垂水周辺で他の物件も色々見たんですけど、教室をするには少し手狭だったりして、ここは広さも決め手でしたね。

――教室を始められたのはいつからですか?

この家に住んでからです。住み始めたときはまだ子どもも小さかったので、1年くらいかけてゆっくり準備をして。HPを友達につくってもらったり、コンセプトを決めたり。
当初は自分のアトリエ使いがメインでたまに教室、のイメージだったんですけど、予想以上に生徒さんが集まってくれて、それは想定外でした。絵画教室に通う子ってかなり少数派だと思うんですけど、娘の友達から始まって、一人、また一人と増えて、今は生徒数は50人くらい。たまたまここの地区は子どもが多いので、母数が大きいのも理由かもしれないですね。
子どもたちには、とにかく色とか素材とかで遊んでほしいなと思っています。そのサポートと、環境を整えることが私の仕事です。

自分の子どもの手が離れて、これから自分の時間が増えて自分の絵を描ける時間ができるかなと思いきや、教室の子どもたちが来るので。60歳定年のつもりでいたんですけど、息子に「お母さん、仕事辞めたらボケるで」と言われて、それもそうだなと思って……教室の空間を自分のアトリエとして使えるのはまだ先になりそうです(笑)

長く教室を続けられてきたJさん 写真:坂下丈太郎
生産性のある家を目指して

――なぜ教室を始められたのでしょうか?

ここに越してくる前に住んでいた場所で、たまたま心理学に興味を持って、コーチングに関するセミナーを受けたことがあったんです。当時、子どもたちがもう少し大きくなったら何かしたいなとぼんやり考えていたところに、そのセミナーを受けて、「人に教えること」、これが私のやりたいことだってはっきり思ったんです。家でできて、子どもも見られますし。

――なるほど。では、教室が住宅と一体であることは前提だったんですね。

義母がピアノ教室をやっていたからか、夫は「生産性のある家はいいよな」って言うんですよ。それはお金のこともですし、私自身としては、絵画教室があることでその地域の文化度が上がるっていう自負もあったりして。だから「自宅を開く」っていうのは良いんじゃないかなと思っています。実際、うちの教室が始まってから、近所に他の絵画教室ができたり、カフェができたりして、すごく良かったなと思っています。

お子さんが描いた絵を飾っているリビング 写真:坂下丈太郎

――逆に、職住一体のデメリットはありますか?

防犯のことは気になった時もありましたね、そういえば……。でも、変わった家にあんまり泥棒は入らないって言いますけど、うちなんか変わった間取りだから、逆に入りづらいんじゃないかな。それに、人が暮らしている感じは抑止力になると思うから、それもそこまで気にならないですね。

――教室が地域に開かれていることは、防犯上むしろいいのかもしれませんね。

教室の賑わいが外にも伝わります。 写真:坂下丈太郎

ご自身のお子さんのみならず、地域の子どもたちと向き合いながら教室という場所を育ててきたJさん。住みながら地域と密接に関わってきたからこそ、まちに文化的な活動の波動をもたらしてきたのだと思います。


case2:薬膳カフェ×夫婦の住まい
理想にドンピシャの物件

2軒目は、阪急池田駅ほど近くの洋館付きの古民家でMさん、Tさんが営む薬膳カフェ。薬膳ランチは予約制で、マルシェやワークショップなどのイベントも不定期で行っています。物件は、アートアンドクラフトがリノベーションし、大阪R不動産で入居者募集を行った賃貸物件。 住んでいるのはMさんご夫婦で、カフェはMさんとTさんが共同で運営されています。

左からTさん、Mさん、Mさんのご家族

――早速ですが、こちらの洋館付き古民家に入居を決められたきっかけは何ですか?

Mさん:私はそこに住んで仕事がしたいという思いがあったので、「店舗ができる住居」がまず条件でした。和洋折衷の古民家で、縁側があって、広い庭があって……、という物件を2年くらい探していて。ここが、思い描いていた物件にドンピシャだったんです。残すべきところは残してあるけど、リノベーションで水回りをもう綺麗にしてくださっていたのもありがたかったですね。

――すごい、理想にピッタリだったんですね。では池田で探されていたわけではないんですね。

Mさん:池田は1回も来たことがなくて。内覧の時に初めて来ました。それまでは神戸に長い間住んでいて、近畿中あちこち探していました。最後はもう東京の青梅でもいいかなと思ったりしていました(笑) 賃貸で、縁側があるような立派な古民家ってなかなか見つからないんですよ!

Mさんお気に入りの縁側

――初めての場所で不安はなかったですか?

Mさん:もちろん不安はありました。でも大阪市内から電車一本だし、都会だけど田舎っぽいというか、落ち着いた感じで住みやすそうだなって。

デメリットが何もない

――確かに、お客さんの来やすさとご自身の住みやすさが良いバランスかもしれないですね。職住一体のメリットはどんなところでしょうか?

Mさん:通うのはしんどいし、時間もお金ももったいないので、私にとってはデメリットが何もないです(笑) 仕事でやり残したことも思い出した時にすぐ取り掛かれますし。

Tさん:逆に私は暮らしと仕事の切り分けがしたいタイプなので、家からここまで通っています。電車で20分くらいですけど、私にはその方が向いていますね。

Mさん夫妻が暮らす住居の一部

――向き不向きがありますよね。カフェをお二人で始められた経緯は?

Tさん:Mさんとは、前に働いていた薬膳カフェで知り合ったんです。そこで働きながら、私は場所を持たずに個人で薬膳茶販売の活動をしていたのですが、やっぱり場所がないとダメだなと思って。最低限の荷物だけ置けるようなこぢんまりとした場所を探そうと思っていた矢先、Mさんが良い物件が見つかったから二人でやらないかと誘ってくれたんです。賃料的にも二人で割れば割安になって広い場所を借りられるし、二人ならできることの幅も広がるし。
こんな広い場所があればなんでもできる、と思いました。実際、玄関横の洋室では薬膳の食材を販売していますし、2階の空きスペースをサロンに使おうという話もしています。まだサロンまでは手が回っていませんが(笑)

洋館部分では薬膳の食材を販売中

――カフェの他に、マルシェやワークショップもされているんですよね。

Mさん:より地域に開かれた場所になるように、知り合いづてに繋がりができた人たちをお誘いしてマルシェを開催しています。カフェには近所の方も遠くからのお客さんも来てくれているんですけど、もっと薬膳の輪を広げられたらなあという思いで季節ごとのセミナーも始めました。

――素敵ですね。これからの展開も楽しみにしています!

ご自身が思い浮かべていたものにピッタリの物件と運命的とも言える出会いを果たされたMさん。それぞれが個人事業主のMさんとTさん、「二人ならいろんなことができる」というお二人の言葉を体現しているような空間でした。

店内には書籍スペースも
店舗付き住宅という選択肢

職住一体の暮らしは通勤時間も賃料も節約できるだけではなく、店舗部分が地域に開いていくことで地域にとっても住宅部分にとってもいい効果をもたらしてくれます。
2倍の賃料を払えば単純な2倍以上の広さの物件を借りられる、というのが一般的な賃料相場の常識であるなかで、ルームシェアなどの空間シェアは珍しくなくなってきたスタイル。それと同じように、広い空間を用意し、住居と店舗という複数の役割を持たせることは賢い選択肢に思えます。今回の2軒の取材では、職と住が渾然一体となっているというよりは、店舗と住居という異なる機能によって空間がシェアされていて、そこを自由に行き来できる、という印象を受けました。

株式会社アートアンドクラフトが運営する大阪R不動産では、店舗付き住宅も取り扱っています。一度始めたらやみつきになってしまいそうな職住一体の暮らし。初めての事業には、広めの住宅を借りる感覚で店舗兼住宅を選択してみるのも、アリかもしれません。

※詳しくはコチラ▷ 店舗兼住居利用が可能な物件


5月募集開始!小商いができる<住居兼店舗>を準備中!

現在準備中の店舗付き住宅についてご紹介します。物件所在地は平野の住宅街。
・天王寺駅から最寄り駅まで電車7分というアクセス
・140平米超の広い面積
・元は診療所として地域に開かれていた場所
まさに職住一体の暮らしを始めるのにぴったりの物件です。

広い軒下が特徴的
診療所時代の写真 家主提供

企画にあたっては、以下のようなポイントにこだわっています。
・「職」と「住」の動線を分離し、生活スタイルの異なる複数人でも暮らしやすいように。
・土間は一部拡張し、診療所時代の空間構成(外の待合、中の待合が続く関係性)を復元。
・店舗部分を開業届が不要な広さ(50㎡以内)に抑えることで、消防法に係る投資を避けられるように。

工事中の様子をチラ見せ。玄関入ってすぐの、店舗の一部です。

募集開始は5月頭を予定しています。お楽しみにお待ちください!

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