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column 2015.11.2
 
Rトピックス
モダニズム再興。
小野達哉(大阪R不動産/アートアンドクラフト)
 

浪速区桜川のモダニズム建築をご存じですか。
新なにわ筋と千日前通の南東角。道路に対して扇状に広がるその形が特徴的な「新桜川ビル」です。このたび、この大阪府住宅協会(現・大阪府住宅供給公社)設計のモダニズム建築の再生を手掛けるにあたり、ビルのことを調べてみると、大阪の街の成り立ちと魅力を再発見することになりました。

大阪府住宅協会の刊行物(昭和35年の刊行と思われる)に掲載された「新桜川ビル」新築当時の写真。当時建物裏側にあった市場のゲートとしての意味合いからこういった形状に設計されたと思われる。(出典/「10周年 財団法人 大阪府住宅協会」)

時は1958年。
それまで多かった木造の低層家屋に代わる、新しい都市住宅の形が模索されていたこの時代。国は住宅金融公庫を通じ、土地所有者に対し中高層建築物融資という融資制度を推進し、全国の都市部で賃貸住宅経営の手本となる優良住宅の建設を後押ししました。
それが「併存住宅」で、新桜川ビルはそんな建物です。

「併存住宅」とは町家が姿を変えたカタチ

戦前、大阪の都市部には木造の町家が軒を連ねていました。
特に船場など市内中心部は、太閤秀吉が街区整備した綺麗な街並みに町家がズラリと並び、前面道路から奥に向かって、店の間(商売のための部屋)、庭、オーナー家族の住まい、その更に奥には奥庭や蔵、あるいは従業員に賃貸していた長屋が続くという、水平方向に長いユニットが連続して立ち並ぶのが大阪の都市の住まいだったのです。

今もまだ大阪の都市部に現存する町家。

戦争で焼け野原になった後、建物を木造2階建から中高層の鉄筋コンクリート造にしてまちなかでの住宅戸数の大量供給と不燃化という至上命令に応えつつ、下層階に土地所有者が経営する事務所・店舗を、上層階に都市で働く人々のための賃貸住居を配置したのが「併存住宅」です。
住宅だけで完結するのでなく店舗や事務所など用途が混在するのがその名の由来ですが、これは水平に伸びる町家群を垂直に立てたような考え方でした。つまりソフトは町家と同じで、ハードの面で町家が都市計画上の進化を遂げたということになります。まだ消防法が施行されていなかったことも大きく関係していますが、住居ですがバルコニーを持たず、洗濯物干し等、私的な要素を都市の表に出さずにビルらしいファサードを保ったことも、船場商人の町家と共通する美意識です。

見た目は全然違う町家と併存住宅ですが、都市における立ち位置は実は同じです。

多くの併存住宅はバルコニーを持たず(持っていても前面道路に面していないなど景観配慮がなされた)、共用の屋上や吹き抜け部分が洗濯物干しの場となった。

ちなみに、当時パリなどをはじめとして、住宅は都市の周辺部に供給し、市内の建物の用途は事務所や店舗を集約させる考え方が世界の都市計画の主流だったのですが、大阪は船場商人の町家文化からこういった併存住宅が立ち並ぶ新しい大阪の街並みを目指したため、ある意味では、世界の潮流の逆を進もうとしたと見て取れます。
とはいえ、建設にあたっての土地所有者との折衝の難しさや、供給戸数の限界から、その後は千里ニュータウンや泉北ニュータウンなど、郊外の団地開発に住宅戸数の供給という使命をとって代わられました。
このことが現在の大阪市の昼夜間人口比率が全国1位になるに至った一因とも思われます
(平成17年総務省統計局国勢調査より)

「併存住宅」再生の意義

都市間競争の現代。
企業や旅行者、移住希望者に選ばれる魅力的な大阪の街を形づくるのは、今減少傾向にあるこういう建物と、そこで商売をし、住まう人ではないでしょうか。
特徴的なファサードや、まだ既製品が十分ではなかったためオリジナルでつくられたパーツの数々から、当時このビルを設計した人の想い、このビルの希少性が感じられます。
コダワリの建物にコダワリのショップが集い、都市に住まうことで賑やかでオモロい街になる。大阪らしさとはこういうことだと思います。

再生工事前の新桜川ビル。特徴的なファサード、オリジナルでつくられたパーツの数々、3-4階居住者のための屋上物干しなど。

この大阪の都市計画の一時代を担ったモダニズム建築の再生が、大阪の街の魅力を見つめ直し、発信することになると私たちは信じています。
今回、2階の店舗と事務所6室と、1階店舗1室、4階住居1室を募集することになりました。
扇状に広がるこのビルの一翼を担い、桜川の新名所にする。
我こそはという方、お待ちしています。

再生工事中の新桜川ビル。今回のプロジェクトでは、設計者のコダワリが見られる竣工時から残る要素は出来るだけ復旧・再活用し、インフラ設備更新と、場当たり的な修繕や自由なテナント工事で散らかった共用部の整理に重点を置く方針とした。

※ 本記事は関西大学環境都市工学部建築学科 准教授 岡絵理子氏に取材協力いただきました。

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